弁護士法人さくらさく法律事務所ブログBlog
主張責任と立証責任
弁護士の櫻田です。
退屈かもしれませんが、たまには教室事例的なお話を。
「裁判は証拠で決まる」
世間でよく言われていることでしょう。
民事訴訟では、裁判官が判決の基礎となる事実を認定する際、当事者の主張に食い違いがあると、証拠によってどちらの主張が事実であるかを判断することになります。
その際、「立証責任」や、これに付随して、「主張責任」というキーワードがあります。
立証責任とは、訴訟上、ある要件事実の存在が真偽不明に終わったために当該法律効果の発生が認められないという一方当事者が負うべき不利益のことをいいます。
他方、主張責任とは、ある法律効果の発生要件に該当する事実が主張されないことによって、当該法律効果の発生が認められないという一方当事者の不利益のことをいいます。
分かり難いかと思いますので、具体的な事例で考えてみましょう。
【Aさんの言い分】
私は、平成29年12月10日、Bさんに対して、代金500万円で土地を売ったが、代金の支払いがない。500万円を支払ってもらいたい。
【Bさんの言い分】
Aさんから土地を買ったことに間違いはないが、平成29年12月15日に、代金の500万円を支払っている。
【訴訟の内容】
Aさんは、Bさんに対して、土地の売買代金として500万円の支払いを求めた。
まずは、主張責任についての説明です。
上記事例における訴訟で、Aさんは、500万円の請求をする原因として、日時や代金等を特定した上で、Bさんに対して、土地を売却した事実を主張しなければなりません。
この主張がされないと、500万円の請求権という法律効果が発生せず、Aさんの主張が認められないことになります。
ここでは、Aさんに、土地を売買したことの主張責任が課せられていることになります。
他方、Bさんとしては、Aさんに500万円を支払ったということですから、この言い分が事実であれば、Aさんの請求には理由がないことになります。
Bさんとしては、500万円を支払ったという事実を主張する必要があり、この点についてBさんに主張責任があります。
次に、立証責任についてです。
土地を500万円で売買したことについて、AさんとBさんとの間に争いはありません。したがって、この点については、特に証拠によることなく、判決の基礎となる事実とし
て認定されることになります。
仮に、Bさんが、売買をしたこと自体争う場合には、Aさんは、売買契約書等の証拠を提出して、売買があった事実を立証しなければなりません。この立証ができないと、500万円の請求権の根拠となる売買の事実が認められないことになり、Aさんは立証責任を果たせず、その請求は認められないことになります。
他方、Bさんは、500万円を支払ったと主張しています(これを「抗弁」といいます)が、そうであれば、Aさんとしては500万円の請求などしないでしょうから、この事実は争うでしょう。
そこで、Bさんとしては、500万円を支払ったことの証拠(振込書、領収証等)を提出して、その事実を立証しなければなりません。この立証ができないと、500万円を支払ったという事実が認められないことになり、Bさんは立証責任を果たせず、Aさんの請求が認められてしまうことになります。
ただ、実務上は、法律要件分類説に基づいて、厳格に訴訟指揮がなされているわけでもないです。たまに、こちらに立証責任がない事実について、裁判官から証拠提出を求められることもあります。原則論を貫いてそういった求めを断ることもありますが、変に悪い心証を抱かれてもいけないので、特に不利なものでなければ、応じることが多いでしょうか。
では。