弁護士法人さくらさく法律事務所ブログBlog

法律コラム

必要性と許容性

弁護士の櫻田です。
本当に早いもので、今年もあと2ヶ月を切りました。冬も近づいてきましたね。

今回の話題は、法解釈でよく使われる「必要性」と「許容性」という考え方についてです。
法律を勉強された方、特に、法律の論文試験の勉強をされた方であれば、一度は聞いたことがある言葉だと思います。

この「必要性」や「許容性」は、例えば、こうした規制をすべきか否か、新たな解釈による権利(例えば、集団的自衛権など)を認めてもよいか、といったような、法制度や法解釈の是非を決める判断枠組みとなるものです。
文字通りといえば、文字通りなのですが、
「必要性」とは、その法制度を構築又はそう法解釈すべき必要性(様々な社会的な事情)があるのか、ということです。
「許容性」とは、その法制度を構築又はそう法解釈しても、現行の法令に違反しないか、ということです。
そして、「必要性」と「許容性」が認められると判断されれば、その法制度が構築されたり、そう法解釈されたりするという結論が導かれることになります。

架空の具体例として、年齢を問わず、飲酒を完全に禁止する(違反した場合は罰則あり)という法規制が可能かどうか考えてみましょう。
まず、「必要性」の検討ですが、成年者の飲酒による弊害、例えば、飲酒による健康被害や、酔っぱらいによる事件などが激増すれば、社会全体として規制をする事情がないとまではいえないでしょう。
では、「許容性」はあるでしょうか。憲法13条では、公共の福祉に反しない限り、基本的人権が最大限尊重されていますが、これに反しないでしょうか。違憲の疑いのある規制は許容されないでしょう。さらに、保護の必要性のある未成年者ならまだしも、全面禁止で違反者に罰則という手段は、明らかに行き過ぎでしょう。
こうしてみると、「必要性」は必ずしも否定はできないかもしれないが、「許容性」は到底認められないということになり、こうした規制はできない結論になるでしょう(・・・もちろん、万が一、現実に全面禁酒という規制がなされるという風潮になれば、私は断固反対します)。

以上は、法解釈における話ですが、この判断枠組みは、仕事や日常生活にも応用できるものです。私も、むしろ、弁護士の仕事以外の場面で考え事があるときに使うことが多いと思います。

非常に簡単な例ですが、新しい20万円のパソコンを買うべきかどうか悩んでいたとする。この悩みも、「必要性」と「許容性」から、論理的に判断することができます。
まず、今使っているパソコンの調子が悪い、性能的に今のソフト使用に耐えられないなどの事情があれば、現状、仕事や生活にパソコンは必須なものでしょうから、少なくとも、新しいパソコンを買うという「必要性」は認められる。
次に、20万円を支払えるお金があるか、20万円を支払ったとして、日常の経済生活に支障が出ないかといった点をクリアできれば、「許容性」もあるでしょう。
そして、「必要性」と「許容性」があるなら、20万円のパソコンは買うべきということになります。
まあ、実際は、このように簡単ではありません。20万円のパソコンは高額ですし、仮に支払えたとしても、普通なら、20万円支払ってまで買う必要があるものか、もっと廉価なもので代用ができないかなどを考えるでしょう。
このように、「必要性」と「許容性」は、別個独立したものではなく、互いに、密接に関連して、物事の是非の判断を導くものだと思います。

小難しい話になってしまったかもしれませんが、何かをすべきかどうか悩んでいる方がいれば、頭の中の整理のため、「必要性」と「許容性」の枠組みを利用してみてはどうでしょうか。