弁護士法人さくらさく法律事務所ブログBlog
処分権主義
弁護士の櫻田です。
今回も、最近の訴訟事件から感じたことを。
民事訴訟法を勉強された方であれば、初期の頃に、「処分権主義」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
処分権主義とは、訴訟上の請求内容(一定の権利や法律関係)は、訴えをする側(原告)が自由に設定・決定することができるということです。他方、民事訴訟では、弁論主義(主張と証拠の提出を当事者の権能かつ責任とすること)の建前が採られているので、訴訟で、主張しなかったことや、証拠を提出せず立証ができなかったことは、その効果が認められないことになります。
平たく言うと、裁判所に対して、訴える側が何を求めたいのか自由に設定できるけど、主張しないことについて裁判所は関知しないし、言い分に争いがあると、証拠を提出して証明ができないと、裁判所はその主張を認めてくれない(敗訴する)ということです。
以上を前提に、本題です。
テナントビルのオーナー様からのご依頼でした。
あるテナントが長期賃料を滞納しているが、相手方は、物件のいたるところで漏水が発生していて、賃料は支払う必要はないと主張しているとのこと。依頼者様としては、未払賃料を回収したい、回収できなければ退去してほしい、漏水の問題も解決したい(一定の賠償はやむを得ない)、とのことでした。
まずは、受任の通知と賃料支払いの催告をしましたが、やはり支払いはなされない。ただ、相手方は、弁護士に相談することが見込まれました。
次の手段としては、法的手続ですが、調停は迂遠になることが多く、この時点では成立の見通しも立たなかったので、やはり、やるなら、訴訟。訴訟をする場合、請求はどうするか・・・。
ここで、前段の処分権主義の話が関係してきます。
裁判所に何を求めるか。賃料請求と建物明渡しは当然としても、漏水の損賠償について債務不存在確認(一部)もするか。
立証の問題だけでなく、訴訟期間や費用の問題も絡んでくるため、依頼者様と相談しながら、相当悩みました。
悩んだ結果、賃料請求と建物明渡しの請求のみとしました。依頼者様としては、漏水問題の解決も希望していましたが、この点は、相手方が訴訟の中で反訴をすることや、和解に持ち込めるのであれば、その中で解決できることが想定されたからです。まして、相手方に弁護士が就けば、この点は放置しておかないでしょうし。
かなり時間はかかりましたが、相手方に弁護士が就き、結果は、賃貸借契約存続の形での和解。一定の損害賠償も認めましたが、未払賃料分で相殺することができ、残りは分割で支払ってもらうことにしました。当然、失権条項も付けたので、今後、賃料等の支払いがない場合には、強制執行もすることができます。
結果は良し、想定通りといったところでしょうか。
しかし、やはり、訴訟は、訴える側であれば特に、最初が肝心です。先を見通して、何を求めるかは熟考しなければなりません。もちろん、後で請求内容の修正は利きますが、その後の主張・立証活動も左右されてしまうので、枝葉の部分ならまだしも、当初からの本筋は曲げない方がいいと思います。
このようなことを考えていたら、処分権主義の建前を思い出しました。学生時代の机上の勉強と弁護士としての実務の絡みを実感しました。
では、今月もよろしくお願いいたします。