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法律コラム

法的三段論法

こんにちは、弁護士の櫻田です。

年が明けたと思ったら、もう1月も終わりですね。

さて、今回は、弁護士が、物事を考えたり、文章を作成したりする際に、思考のベースとなる「法的三段論法」という論理をごく簡単にご紹介します。

法的三段論法とは、「大前提」と「小前提」から「結論」を導き出す論法です。

具体的には、例えば、
【大前提】「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」(刑法204条)
【小前提】甲は、乙の顔を殴って、全治2週間の怪我を負わせた。
【結論】甲は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる。
といった感じです。

まず、「大前提」は、規範、具体的には、法規・法令の条文にあたります。
弁護士としては、まず、条文を熟知しなければならないことはいうまでもありませんが、それが抽象的な場合は、判例や学説等を参考に、解釈することになります。
上の例の刑法204条でいうと、「傷害」の意義が問題になることがあります。
実際に殴ったのであれば、通常、「傷害」にあたることに異論はないと思いますが、例えば、大音量を流し続け、精神的ストレスを与えて睡眠障害にさせるなど、身体的な接触がない場合や外傷がない場合にも、果たして「傷害」といえるのか?といったことが問題になり得ます。ちなみに、この例に類似した、奈良の騒音おばさん事件では、傷害罪等で実刑になっていますね。

次に、「小前提」は、世の中で現実に発生した具体的な事実です。
弁護士としては、当事者や関係者からの聴き取り、警察等が作成した調書、乙の診断書等の様々な証拠資料から、「甲は乙の顔を殴ったのか?」「乙は全治2週間の怪我を負ったのか?」などということを確認しなければなりません。
本来、事実は一つしかないはずですが、弁護士は、実際に現場にいたわけではないので、証拠資料から、その時に(過去に)起こったであろう事実を認定することになります。
この事実認定は、時に、困難を伴います。証拠資料には、当事者等の言い分などの主観的なもの、関係機関が作成した書面などの客観的なものがありますが、必ずしもすべてが一致して、一つの事実が導き出されるわけではないからです。また、実際の裁判では、主観的なものより、客観的なものが重視される傾向にあるので、この点にも注意が必要です。
ともあれ、この事実認定は、知識はもちろん、経験、ヒアリング力、文章力、応用力、創造力、感性等、まさに、弁護士としての腕が試される場面だと思います。

最後に、「結論」です。これは、大前提、小前提から導き出される法的な効果です。
上の例でいうと、結論は、小前提(甲が乙を殴って怪我をさせた)を大前提(刑法204条)に当てはめた結果として導かれる甲の処罰内容です。
弁護士としては、常に、この結論を見据えて行動しなければなりません。依頼者の方の目的は、この結論にあります。依頼者の方にお力添えをする弁護士としても、結論が全く見通せない、結論の方向性を見誤るといったことはできません。大前提と小前提を踏まえて、常に、導かれる結論を予想しておく必要があります。

少し教室事例的な話になってしまいましたが、弁護士として仕事をする以上は、何事も理路整然たるべきであると思っています。法的三段論法はそのための有用なツールの一つです。